予算委員長に拍手を!

 タイトルについて,最初は「予算委員長に拍手をしてはいけない」にしようかと思っていましたが,やはり「予算委員長に拍手を」にすることにしました。

 これが何についてのことかというと,今年の2月5日の予算委員会の質疑において,とある委員が防衛省の制服組(自衛隊で隊務を行う自衛官)に対する答弁を求めたことに対し,委員長が文民統制を理由にこれを断ったという出来事についてです。
 最初は,当たり前のことなんだから拍手をしてはいけないという趣旨で書き始め,そのようなタイトルにしようかと考えたところでしたが,当たり前を維持することはとても難しく,特に,「空気」が支配する我が国においては,やはり,当たり前のことをするにも相当の努力が必要であり,その一つとしての予算委員長の対応には,やはり敬意を払うべきだと思うに至ったところです。

 ところで,文民統制とは,憲法66条2項の「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」という規定に含意される概念で,軍人ではない国民により軍が統制されなければならないことをいいます。
 要するに,政治に対して,実力部隊である軍部,わが国であれば自衛隊が権限を有することを排除し,民主的な政治の実現を手段として担保するという関係にあるともいえます。
 国内では,自衛隊が最たる実力を有するのは明らかで,その隊員がクーデターを起こそうとすれば,誰も止めることができなくなってしまいます。

 2007年のことだったと思いますが,防衛省が設置されました。
 設置と言いましたが,正しくは,それまで防衛庁として内閣府に従属する行政機関であったものが独立した省に昇格したものです。
 これは,第一次安倍内閣の頃のことで,それに伴い,最初の大臣に久間さんが任命(長官から昇格)されました。

 私の感覚からすれば,第一次安倍内閣が発足したことは,日本の政治が右に右に動いていくというものだと感じていましたので,この防衛省昇格のタイミングで初代大臣に就任した久間さんが映されるテレビの画面を見ながら,「この人が今クーデターを起こせば,日本はひっくり返るよね」とその頃所属していた厚生労働省のとある部署で同僚と話をしていたことを覚えています。

 現在は,石破総理のもと,与党が過半数を取れていない状況にありますが,世界中の国々で極右政党と位置付けられる政党が躍進しています。
 そのような流れの中で,日本においても右寄りの内閣が発足し,予算委員長にその右寄りの党派に所属する方が就任していれば,もしかすれば,あっさりと制服組による答弁を許した可能性も否定できません。
 そうなれば,内閣は,おそらく,文民統制の原則が憲法に存在しながらも,解釈によりこれを認めるという流れを作るべく議論を開始し,そして,そのことが当たり前のことにもなったかもしれません。

 我が国では,おそらく,クーデータにより一夜にして体制が変わってしまうようなことは,容易には起こらないと思いますが,しかし,少しずつの積み重ね(右傾化などが進み,憲法の解釈も変えられてしまうことなど)により,いつの間にか,これらと同じような効果をもたらすことは否定し得ないと思います。

 そのようなことを考えたとき,当たり前のことですが,予算委員長のとった対応に敬意を表したいと思ったところです。