整形・タトゥー・性器の切除

 新聞記事に女性器の切除を問題視する記事が載っていましたが,ここでは,自己決定権について触れたいと思います。
 自己決定権とは,自己の人格に関することは自分で決める権利です。当然ながら,他人がこれを勝手に決めてはなりません。
 そのため,外形的に同じ行為が行われる場合であっても,本人の体について,その本人の意思が欠けていれば自己決定権の侵害です。また,本人の意思があるように見えても,そのことを熟慮しえるだけの能力がない場合には,やはり,そのような状況に追いやった人たち(あるいは,教育をしなかった人たち)による自己決定権の侵害です。

 女性器の切除についてですが,これは,アフリカのいくいつかの国(ないし地方)で,子供(少女)が一定の年齢(その記事では9歳の少女の話が載っていました)になると,カミソリ等でその女性器の一部を切除するというものです。

 少女は,その後,1人の女性とみなされ,両親の介在する結婚を強要されます。
 両親としては,自分の娘を嫁がせる代わりに婚姻の品々をもらえることを当てにしてのことのようです。特に,そうするかどうかの決定権は父親が有し,母親も,自分が経験したことでもあり,そのことに疑問を持たないようです。

 アフリカのその地方の方々からすれば,そのような女性器の切除は当たり前のこととされていて,人権侵害などのいわれを受ける筋合いのことではないという考えるようです。そして,その理由として,欧米(?)で女性器の美容整形が行われることを挙げるそうです。
 しかし,それが理由になるのでしょうか?
 ならないはずです。そこには,少女本人の自己決定がないからです。

 整形や刺青(タトゥー)もそうですが,自分の体は自分のものです。他人がそれをどうするか決定する権利はありません。
 女性器の切除について,その少女本人が,自分の人生に関する決定を十分に行えるだけの成熟した大人として自分でそれを選択(自己決定)するのであればそれを止めることはできません。
 しかし,そのことを,当事者ではない両親が決めるという点で,美容整形の場合とは大きく異なります。その少女の体について,本人の意思ではなく,他人の意思により切除(処分)されることは,事件や事故等で生命の危機に瀕しているような場合以外に正当化されることはありません。
 いずれにしても,自己決定権の侵害です。

 これと同じように,整形を行うことやタトゥーを入れることは,その体を傷害ないし侵襲することです。一定の思考能力有する成熟した大人がそのように判断するのであれば(一定の民族等においてはそのような行為が文化的だと主張されることも含め)それを止めることはできないとしても,やはり,熟慮ができない未成年者において容易くそれを行うことを認めることはできません。

 これまで私が少年事件で接したことのある何人かの少年は,自分の意思で刺青を入れることを決めたものですが,その時に,その行為がどのような意味を有しそしてそれが不可逆的であることを十分に理解して行なったかというとそうではないはずです。

 例えば,2本ある足のうち,一本を切除すれば,障害年金を受給できるでしょう。
 しかし,その受給権の発生という利益のみを理由に,実際に自ら片足を切除する方はいないはずです。その際の苦痛であったり,片足を失った後の生活がどのようなものとなるかが目に見えてわかるからです。そして,不可逆な行為であり,当然ながらそれまでのような両足のあった人生を送れる状態に戻ることはできません。

 それと同様に,女性器を切除することも,整形することも,刺青を入れることも,それが何を意味するのか。一度行って仕舞えば,後戻りすることはできません。そうでありながら,自分の身体を傷害し侵襲してまで行うべきことなのか。
 そのことを熟慮しえるだけの能力等がないままでそれを判断させることは,自己決定権を侵害することと同じです。

 いずれにしても,美容整形(女性器を切除するという外形的には同じことが行われていること)を理由に,両親が少女の体についての決定をしていいことには,絶対になりません。