新聞を読もう

 少し前に,日鉄がUSスチールを買収して,完全子会社化することが決まりました.
 それに関する新聞記事を読んだ際,「新聞を読もう」と改めて思ったところです.

 その理由は何か?

 それは,私が大変お世話になった方の言葉を借りていえば,新聞を読むことで,「国に騙されないため」です.
 例えば,今のアメリカと,アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏の言動等を見るとよくわかると思います.

 彼が大統領として選出された際,アメリカの世論は二分され,彼を支持する方々は彼が大統領になればすぐに生活が良くなると信じてやまなかったとの記事に接したことがあります.
 特に,X(旧ツイッター)に投稿して表明された意見等を鵜呑みにして,その真偽を確かめることもなく,多くのアメリカ国民が彼に期待を抱いたようです.
 その結果,ドナルド・トランプ氏は,大統領となった以上,できる限り早期に成果を上げる必要に迫られているはずで,そうすると,国民としては,彼が主張する成果がフェイクではないかどうかに関心を寄せる必要があります.

 その一つに,彼の行うこととして,高関税措置があります.
 アメリカ国民は,これにより,アメリカ国内に製造業が回帰されると期待しているはずですし,このことは,彼が掲げるMAGAの内容に含まれているはずです.

 確かに,彼の行う高関税措置は,一見すれば,外国の資本も含めて,国内に事業を回帰させる方法といえそうですが,実際には,すでに世界中に構築されたサプライチェーンを捨ててまでそうすることが現実的かどうかは考える必要があるようです.
 そのため,理論的には,アメリカ国内に工場を移すことは,可能であったとしても,そのために気の遠くなるほどの時間を要するとともに,かつ,それが実現されるかもわからないとしかいえないはずです.
 ある新聞記事では,アップルの製造するiPhoneは,上記のことが当てはまるそうで,現在,中国を中心としたアジア圏でその部品の製造及び組み立てがされているそうです.容易にアメリカ国内に回帰できる状況ではありません.
 しかも,それをアメリカで組み立てようとすれば,人件費の高さからiPhoneが1台,50万円を超えることになるとも新聞記事は報じていました.
 アップルの選択肢として現実的とは思えません.
 高関税措置が製造業をアメリカに回帰させる方法として妥当と言えるかは怪しいということです.

 また,彼が,鉄鋼に高い関税をかけたことにより,日鉄がアメリカに進出することにより事業の拡大を図る(アメリカの鉄鋼ではなく日本の鉄鋼がアメリカ市場に出回る)のではなく,USスチールの買収に至った(アメリカの鉄鋼業に外国の企業が出資して,アメリカの鉄鋼が世界に出回ることになる)と言い出せば,おそらく多くのアメリカ国民(のうちの彼を支持する人々)は,そのように信じてしまうだろうと思います.

 しかし,実際は,日鉄によるUSスチールの買収も,彼が大統領となるよりも前(バイデン前大統領の頃)から提案・交渉がなされていたのであって,彼が鉄鋼に関税をかけたからではありません.彼がそのようなことを言えば,事実に基づいて,
 「あー,また言ってる」
ぐらいの感覚をもたなければ,国に騙されてしまうということです.
 また,日鉄自身も,市場の拡大を目指した場合,アメリカでの生産を行うことが合理的であることを,前々から考えていたため,USスチールの買収に着手したということがそもそもの理由だったようです.
 騙されてはいけません.

 そこで,「新聞を読もう」ということなんです.
 新聞を読めば,そのような事実関係を踏まえた記事が掲載されている場合が多くありますし,少なくとも,権力者の発言等に騙されないだけの知識を得ることは可能となるはずです.
 以上のべた内容は,新聞からの情報をもとに記載しています.

 もちろん,ネットで流れてくる情報からも同じような知識を得ることはできると思いますが,私が見た限りでは,主要な出来事については,新聞の情報量とそれほど大差ないように思います.
 職業柄,とあるメールニュースを受信し,法律や裁判に関連する記事を閲覧できるように設定していますが,実際に,そこから得られる情報の大半は,今朝の新聞記事に含まれているものがほとんどです.

 また,情報から得られる出来事の分かりやすさとその信用性(そこに含まれる事実の真偽や正確性を基礎付ける理由等)は,トレードオフの関係にあると思われますが,ネットの情報の多くは前者(のみならず興味関心をそそる表現)に力点が置かれ,後者について,かなりの部分を犠牲にしているように思います.
 その点では,ファクトチェック自体も紙面で行うことが多くある新聞の方が,一見してすぐに理解できるということはないとしても,信用性については期待しても良いように思います.

 新聞について,オールドメディアと呼ばれるようになって久しいところですが,紙面自体のネットでの配信が行われるものもあるようです.
 「ネットとテレビで十分」と思わずに,新聞も読んだ上で,情報の取捨選択を行う習慣をつける必要があるように思います.
 少なくとも,日本人が,アメリカ国民と同じような選択(トランプ氏を大統領としたこと)をしないためには,重要ではないでしょうか.