性風俗業にも持続化給付金を!

 コロナ禍の際,多くの中小規模事業場に対して,持続化給付金が支給されました.しかし,風営法上の性風俗産業に対しては,これを支給しないものとされています.
 現在,支給を申請しながらも不支給とされた性風俗産業の事業者等が,この不支給処分を争って訴訟をしています(私はこれには何も関わってはいません).
 ここでは,そこでの理由について,少し考えたいと思います.
 私の意見としては,不支給処分(あるいはそのような立法)は不当な差別として無効とし,給付すべきだというものです.

 裁判における国の主張は,性風俗業を「性を売り物とする本質的に不健全な営業とされ,社会一般の道徳観念にも反するものとされている」というもので,かなり露骨な表現を用いています.これに対して裁判所は,次のように述べています.

 「客から対価を得て一時の性的好奇心を満たし,又は性的好奇心をそそるためのサービスを提供するという性風俗関連特殊営業が備える特徴が多くの者が共有する性的道義観念とは相容れないという考え方がある」

 裁判所は,このような理由から,不支給とすることも不合理ではないと述べています.一見すると,「性を売り物とする本質的に不健全な営業」という表現は,否定し難いとも思われます.

 そもそも論として,性について,金銭等と対価的な価値を置くこと自体,私としては否定的です.そのような意味では,性風俗産業の存在それ自体に何の問題もないとは考えません.

 しかし,上記のような国の主張や裁判所の判断からすれば,「不健全」という言い方をしているものの,実際には特定の人に対する差別的な価値観に支えられているように思われます.
 つまり,そこでサービスを提供して収入を得ること(営業・事業)それ自体を,社会的に問題のあるものとして認識しているというだけでなく,そこで働く方(多くは女性だと思います)のことを社会的に低いものとみなす,そのような価値観に基づいているのではないかということです.
 そして,そのように考えに立ってしまえば,その先にある,不支給処分による効果,つまり収入が絶たれることにより生活が困窮し,人としての生命すら脅かされる事態が生じうるという現実にも目を向ける必要がなく,不支給処分を容認するという結論を導くことが容易になってしまいます.

 しかし,それで良いのでしょうか?

 裁判所の述べる,「不健全」という言葉は,よくよく考えれば,そのような実体があるかどうかも怪しい,抽象的な言葉上も問題だとも言えます.「考え方がある」というのはまさにそのことを示しています.法律上認められている事業でありながら,そのような抽象的な理由で差別することに理由があると言えるのでしょうか.

 そして,不支給処分による効果は,そこで収入を得て生計を立てて暮らしている人からすれば,生きていくことそれ自体を否定されるに等しいともいえます.そのような抽象的な理由だけではなく,さらに踏み込んで,そのようなことにも目を向けた上で,不支給処分とすることの是非が判断されるべきです.

 20年以上前に読んだ雑誌には,とある国の娼婦のことが載っていました.
 その方は,目が見えない方で,写真からみた感じでは,当時の私(20歳)からすれば,かなり年配の方のように見えました.
 記事の中で,彼女の1日について記載がされていましたが,仕事をして収入を得た後は,自分の食事と,町に住み着いた野良猫の餌とするために魚を買うのが日課だと書いてありました.
 その方は,目が見えない(全盲かどうかまでは分かりませんが,掲載されていた写真はどれも目を閉じていたものだったように記憶しています)ということもあり,年齢的なものもあり,また,その国のその地方の産業の状況などからしれ,おそらく,そのようにして生計を立てるしかないのだと思います.
 しかし,それにより得られた収入によって,その方は確かに生活をして,自分の人生を生きています.

 今回,給付金が不支給となった方々がこの場合と異なるかというとそうではないはずです.そこで得た収入で生計を立てています.
 性的なサービスの対価が発生する以上,「人」というものがお金で換算されてしまうという意味での不健全性はあるとしても,それが本人の生活費となり,子供の養育費となることを考えれば,それ自体に価値をつけることはできません.
 子供が必要十分あ養育と教育を受けて健全に成長し,人類の将来を担うことを考えれば,その価値はプライスレなはずです.そこには「不健全」などという評価があてはまることはありません.

 この点で,「援助交際」という言い方で未成年者による事実上の売買春が問題となった時期がありましたが(今でも同様なことはあるとは思いますが),そのことの何が問題かといえば,そこで得た収入が高級なブランド品の購入など,その人の生活に直ちに必要とは言い難いものに充てられていたことだと私は考えています.
 生活に困窮しているわけではなく,そのようにしてでも収入を得なければ学校に通えないというものでもなかったはずです.
 コロナ禍で,この事件の性風俗産業で働いている方の置かれていた立場とは大きく異なるはずです.このような場合があることをもって,不支給とする理由には当たりません.

 まして,性風俗産業は,客を食い物にして収益を上げているものではありません.違法薬物の販売やマルチ商法など,消費者を喰い物にするものや,暴力を背景に便益をを要求する反社会的組織とも大きく異なります.
 そのような意味での不健全性があるとも言えません(もちろん,人身売買の温床となりうることは否定しませんし,そのような意味での「不健全」性を内在するということであれば,大いに問題と考えますが,ここでの議論は,そのことは別問題です.).

 以上のような理由から,私としては,不支給処分については取り消されるべきだと考えるところです.