福岡県弁護士会の副会長が,業務停止1か月の懲戒処分となり,副会長を辞任したとの報道がされました.名前はよく目にする方ですが,直接の面識はありません.
懲戒処分とされた理由は,どうやら,依頼者に,調停を申し立てていないにも関わらず,申し立てたと虚偽の報告をしたからのようです.
また,この弁護士は,弁護士会の処分では懲戒とならなかったのに対し,懲戒を請求した方から不服申立てがされたのち,日弁連により業務停止処分と決定されたものでしたので,福岡県弁護士会の自浄能力にも疑問が向けられる事態となってしまいました.
そのため,ニュースの中で,弁護士会会長が「不祥事があったことを重く受け止めている」と述べたようですが,これは,何を「不祥事」と捉えているのでしょうか?
その弁護士のやったことを指してのことでしょうか,それとも,福岡県弁護士会が,日弁連で覆ってしまう処分をしたことを指してのことでしょうか?
実は,私も懲戒の請求を受けたことがあります.この時は,何ら処分を受けませんでしたが,請求の理由については,確かに,私が軽率だった(裏付けを十分に取っておくべきだった)と反省をしたものです.
それだけでなく,実は,10年以上前のことですが,まだ,弁護士として登録して2,3年という間もない頃に,とある弁護士に対する懲戒処分を請求したこともあります.
その弁護士は,弁護士会の副会長を務めたことがあるだけでなく,福岡では,かなり有名で,名の知れた方でした(おそらくご存命ですが,過去形にしています.).
請求の理由は,私がその弁護士の事務所に電話をした時に,いきなり「払うもんか」「法律と契約が全ての人種だろうが」「ロースクールはどこだ!」など怒鳴りつけられたからです.
弁護士となってまだ2,3年しかない当時の私でも,その弁護士の名前は聞いたことがありました.
私は,とある依頼者のために,代金の支払いを求めて請求書を送付したところ,その弁護士と,その事務所に所属する6,7名の弁護士の連名の通知書(回答書)が送られてきて,支払いに応じないというだけならまだしも,公正取引委員会やメディアに告発するぞといった内容の,まあ,脅しのようなことばかり書かれたものでした.
そのため,「何これ?」「告発するならわざわざこちらに知らせずに,さっさとすればいいのに」「口だけか」とため息をつきながら,一応,どのような意図なのかを確認するために,その弁護士の事務所に電話をしました.
その時は,その弁護士本人ではなく,その事務所に最近入った新入りの先生が電話には出るだろうと思っていたところ,予想に反してその弁護士本人が電話に出るやいなや,上記のとおり「払うもんか」と怒鳴りつけられたものでした.
そのため,「こりゃあかん,素人と一緒だ,話ができない」と思いながら,私は,電話機の録音ボタンを押し,その弁護士に最初から話をさせるために,要件事実として請求原因と言える内容について,「ちょっと,まってください」「まず,契約しましたよね」といって,それに対して,支払いを拒むだけの理由を述べるように促しました.
そうしたところ,その弁護士が「ロースクールはどこだ」と言い出したので,「いってません」と答えると,「?」となり,「大学は?」と尋ねてくるため「東工大です」と答えると,電話越しでしたが,間の空き方から,その弁護士の頭にさらに「?」が浮かんだのは容易に想像できました.
そうしたところ,「旧試験の合格者か?」と尋ねられたので,「最後から2回目です」と私は答え,「出身大学が関係するんですか?」と尋ねたところ,「どんな人種かと思って」と言い出し,結局,「払うもんか」と電話を切られました.
電話を切られた私は,すぐに,電話の録音内容を文字に書き起こし,その弁護士の事務所にファックスを送り,「先ほどの電話の内容です.ご確認ください」だったと思いますが,そのような書類を作成して送信しました.そしてすぐに,その一連の発言について「品位を失うべき非行」に当たると主張して,福岡県弁護士会に懲戒請求を行いました.
ところが,すぐに懲戒処分って決まらないんですね.
そのため,身内だから甘い処分で終わらせようとしているのではないだろうかと思い,その弁護士以外の,回答書に連名で記載されていた弁護士についても,全員に対して懲戒を請求しました.
そうしたところ,その弁護士以外の弁護士は,ただ名前を連ねただけで,その件には何も関わっていないということで,何も処分をしないこととなりました(本音を言えば,記名して押印した以上は同じだけの責任を負うべきだと思いますが,そうはなりませんでした.).
しかし,電話で怒鳴りつけた弁護士については,事実確認のため,弁護士会に出頭するよう命じられ,事情聴取を受けたとのことです(私も,それに先立って事情聴取を受けました.).
その結果,どうも,懲戒にするかどうか議論があり,通常であればそれほど時間を要しないようですが,半年ほど協議が続き,最終的に,綱紀委員会20名の委員において,多数決がとられたとのことでした.
そして,残念ながら,9対11で,懲戒にしないという意見が多数となり,結果として懲戒とならなかったとのことでした.
悔しかったですね.
ちょっと,長くなりましたが,要するに,弁護士会の内部においても,身内だからという理論がまかり通っているのではないか(表立ってそうではないとしても,影響はあるのではないか)というのは,すごく気になるということです.
辞任した副会長は,弁護士会の活動にあまり関与していないこんな私でも,比較的,会の月報などで名前を目にすることのある方でしたので,もしかすると,身内だということで何らかの理由をつけて,懲戒にしないことにしたのではないかと疑ってしまわざるを得ません.
まして,私がこれまでに目にした全国の懲戒処分では,この件のように,依頼者に「嘘」を告げた場合に懲戒処分とされた事例を多く目にしていましたので,福岡県弁護士会においても,懲戒処分とすることが期待されたものと言えます.
そのため,冒頭述べました「不祥事」というのは,その懲戒処分となった弁護士が依頼者に嘘をついたという行為について使われたのか,それとも,福岡県弁護士会が身内に対して便宜を図ったという意味で使われたのか,どちらなんだろうと考えてしまいました.
ちなみに,私も含め,弁護士にもミスはありますが,間違った時,あるいは,仕事が遅れるなどして迷惑をかけた時には「ごめんなさい」しかないはずです.
そこで嘘をつくということは,依頼者に対する背信的行為に他なりませんし,刑事裁判教官の言葉を借りれば,「過失ではなく故意になる」ということです.
今回の件は,その先生ご本人にとっても,福岡県弁護士会にとっても,「不祥事」としか言いようがないと思います.
2023年のことのようですので,現会長にとっては,やや気の毒な出来事だと思えてなりませんが,身体検査が甘かったということですね.