秘書と陳述書を国会へ

 高市(首相)さんが,他の候補者の中傷動画の制作を依頼したとかしなかったとかについて,秘書の陳述書を提出して答弁に代えたいという趣旨の発言をされてから,いまだに陳述書が国会に提出されていないようです.

 ところで,高市さんは,陳述書を出すことで
 「あらかじめ陳述を提出し、質疑者にも国民にも全体像を読んでいただくことで理解が深まると考えた」
 ということのようですが,この言い方からすると,自分に対する質疑の準備のために陳述書を提出するという意味のようです.

 陳述書の提出は当然として,秘書を,証人として国会に呼ばないのでしょうか?

 そもそも,陳述書というのは,民事裁判の場において,当事者や証人が一人称で語ったように事実等を記載した文書のことを言います.
 例えば,
 「私は,信号待ちのため,ブレーキペダルを踏んだまま停止線の前で停車していました.対面する信号が赤から青に変わったので,ブレーキペダルからそっと足を離そうとした時,後方からの強い衝撃を感じました.」
 といったことを記載したものです.
 そして,内容の真実性を保証する意味で,陳述者の署名押印がされます.
 なお,刑事事件では,警察が被疑者(容疑者)等から話を聞いて同様の一人称の文書を作成しますが,こちらは「供述調書」と呼ばれています.

 裁判では,陳述書も供述調書も,いずれについても証拠として扱われるものですが,基本的に,その内容を述べ,署名押印した人が,法廷で証言(供述)をすることが予定されています.
 理由は,陳述書や供述調書は,いくらでも作文ができるからです.
 実際,陳述書に,自分にとって不利なことを記載しませんよね.ですから,陳述書は,証拠として扱われますが,基本的にそれだけで信用してもらえることはありません.

 そうすると,陳述書を作成した人が,証人尋問を受けて法廷で供述するのであれば,そもそも,陳述書を作成する必要はないようにも思えます.

 確かに,極論すれば陳述書は証拠としては不要ですが,陳述書を作成して,その証人等が,どのようなことを法廷で供述するかをあらかじめ開示することで,尋問者(質問者)が,証人等に対してどのような質問をするか,あらかじめ準備することができるようになります.
 それにより,本当にその供述を信用して良いのかが判断されやすくなります.

 陳述書を作成することの本来の意味からすれば,高市さんの説明はズレています.

 高市さんの説明は,陳述書を提出して,議員に,自分に対する質問のための準備をしてもらうという意味のことが述べられています.おそらく,陳述書の本来的な使用目的を理解していないからです.

 高市さんへの質問のために秘書の陳述書を用意したとして,その中で「中傷動画の依頼のための打ち合わせをしました」と述べていたらどうなるでしょうか?
 おそらく,高市さんは,野党議員からその点について質問をされても,「秘書は嘘をついている」と答弁するはずです(もちろん,そんな陳述書が提出されるはずはありませんが.).
 そうなると,高市さんが陳述書の内容を認めない限り,国会の質疑は単なる水掛け論にしかなりません.秘書の陳述書の内容を高市さんに問いただしても意味はありません.秘書が嘘をついているのかいないのかは,秘書を呼んで問いたださない限り明らかにならないはずです.

 国会で「中傷動画の依頼のための打ち合わせはしたことはありません」という陳述書を作成した秘書に対して,様々な証拠を示しながら質問することで,その秘書の述べることが信用できるかが判断され,真実に迫ることが可能となるはずです.
 仮に陳述書と矛盾するようなことを述べるようであれば,嘘をついているか,嘘をついていないとしても,記憶は曖昧だということが明らかになるはずです.

 そのような訳で,高市さんが秘書の陳述書を国会に提出するということは,当然,秘書を証人として国会へ呼ぶことも,セットとして行われるべきです.

 国会を延長するなら,是非,秘書を呼びましょう.